靴で地域を編み直す
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卒業生インタビュー:kokochi sun3 森田 圭一さん 卒業生インタビュー:kokochi sun3 森田 圭一さん

取材・撮影:2017年(『靴職人の手仕事展』展示資料より)

靴づくりのはじまり

ー森田さんは、どんな経緯で靴づくりの道に入ったんですか?

これはね、気付いた時には靴しか残ってなかった。15歳で音楽を始めて、ミュージシャンになりたくてずっとバンド活動をやってたんですよ。それから18歳の時に就職せずにフリーターになったんですね。ミュージシャンになるからにはオシャレじゃなきゃといかんと靴のセレクショップに入って、ちょっと靴も面白いぞ、となってくる。21歳で結婚して、22歳で長田の靴メーカーに入って…で、29歳の時に全部無くなったんです。

ー全部というと?

音楽はストリートミュージシャンをやってたんですけど、病気をして「音楽辞めますか、生活辞めますか?」って言われて、音楽を辞めて。奥さんとも別れることになって、長田のメーカーは長田のメーカーで、海外産の安いものに仕事を取られて暖簾を畳むメーカーさんがいっぱいで、業界もどうなるかわからへん。音楽やってて結婚してて長田で靴やってて…もう、こう、虚勢を張ってた自分が全部無くなりました。

ー結構キツい状況ですね。そこからどう今に繋がるのでしょう。

もうほとんどうつ病みたいな感じ。そんな時、長田のメーカーの先輩に「メーカー辞めようと思います」って言ったら「おまえな、8年間靴やってたんやから、西成にこうゆうトコあるから一回行ってこい(西成製靴塾のこと)。行って半年でも何でもやって、それでも靴が嫌いになるんやったらもう辞めたらいいし。お前、もうどうせ捨てるもんないんやから、行け。」って。で、僕行ったんですよ。そしたらハマったんですね。

西成製靴塾に通う

ー学校はどうでしたか?

僕、途中入塾なんです。9月か10月に入ったんですけど、はじめの面接の時に「長田のメーカーでやってたなら半年分くらいは追いつけるやろ。あかんかったら4月からもう1回やり。」って言われて「わかりました」って入って。こっちとしてはやっぱり8年やってるんで、もう俺スゲーっていう気持ちで、初日ガラガラって入って「いどもー!」みたいな気持ちですよ。

ー道場破りみたいですね(笑)

でも1足目を作ったら全然うまいこといかないんです。だって包丁持ってあんな分厚い革を切ったことないんですよ。もう、出来上がったパンプスはボロボロ、傷だらけ。もう悔しくて悔しくて。で、それ持っておじいちゃん先生に出来ましたって持っていったら、それをニヤニヤ、ニヤニヤしながら見て「お前一足で天下取ろうなんて大間違いやぞ」って言われて(笑)悔しくて悔しくて。

ーでも、そんな風に言ってもらえて良かったですね。

そのおじいちゃん先生の言葉は染み入りましたね。「稽古は裏切らんから。やったらやっただけ、うまなるから。」とか「技と一緒に人生も学ぶんやぞ。」とか。年配の方が言うから、ものすごい深いんすよ。重いんですよね。

ーその頃には気持ちも元気になってたんですか?

西成製靴塾に通い始める時に「ここで負けたら自分は元に戻る。あの自信の無い自分に戻ってしまうから、それなら入るからには一番で出よう。卒業したらすぐに開業しよう」って決めてたんで、目標が出てきたら、またメラメラとやる気も出てきました。

kokochi sun3のはじまり

ー卒業してすぐに開業したんですね。開業してからは大変でしたか?

3年間は全然飯食えなかったですね。だから長田のメーカーの社長に頭下げて、もう1回バイトで雇ってもらいながら、晩に夜な夜なサンプル作って。そんな感じで2年くらいやったかな。

ーそこからどのように軌道に乗せていったんでしょうか。

アルバイトしないと飯食えないって、趣味と変わらないんですよ。趣味と変わらないことを人生かけてやってる僕が嫌いになったんです。だからアテはないんですけど長田のメーカーを辞めて、そしたらどんどんお金が無くなっていく。なんでお金が無いのか考えたら、営業ができないんですよ。それやったら店を介さずに、その人その人に売ればいいんだと、そっちの方が伝わりやすいやんって思って。
それで、ストリートミュージシャンやってたんで、道具全部持って大阪行ってゴザ広げて、路上で靴を作りだしたんです。1回目で怒られましたけど(笑)でも、これやと思って。それから段々と、カフェとかライブハウスとかアートのイベントとかに出だして、そうしてると靴作りのパフォーマンスしながらやってたのが珍しいからか、メディアさんが面白いねって声かけてくれて。で、ようやく飯食えるようになった。そんな感じ。

森田さんのつくる靴

ー面白い形の靴ですよね。

僕の中では、いたって普通だと思ってるんですよ。周りの靴を見ない訳ではないけど、周りの靴は関係なくって、自分の中の、この頭の中のモノが形になるっていうことにしか執着がないので。僕の中では普通(笑)

ーコンセプトを教えてください。

10年やってようやく気づいたのは、kokochi ってブランドは僕でしかないんだなってこと。いわゆる僕の分身というか。それが僕が一番気持ち良くって、お客さんも気持ち良かったりするんですよ。なので店を見ても、モロッコのラグとチベットのラグがあって、表にはメキシコ風のカブが止まっててっていう無国籍。ひとつにカテゴライズされないものを、吸収して、咀嚼して、そして出したもんが自分の作品やと思うんで、コンセプトというと、そういうことかなって。コンセプトがないのがコンセプト。

ーどんな風に靴作りをされているんでしょうか。

毎シーズン「とんでもないもの出すねん」っていう気持ちでずーっと詰めていくでしょ。ちょっとずつクリエイションとか技術とかに負荷をかけていくんですよね。今まで培って来たものがあって、そこにあえて自分で負荷をかけることによって「もう無理やで」っていうような発想を形にする。そういうことを繰り返していくと、やっぱり毎シーズン成長があって。で、この成長は何の為って、自分の為もあるけど、やっぱりお客さんの為でもあるじゃないですか。自分が満足して、凄いの出来たよっていうものをお客さんが喜んでくれるっていうのは、利己的なエゴじゃなくて、利他的なエゴになってるでしょ。そのために僕はクリエイションを、技を磨くっていうのはありますね。
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