靴で地域を編み直す

西成製靴塾ロゴ

大阪の近代化とともに

西成製靴塾の以前の教室以前の教室の様子(〜2015年)

日本において革靴づくりをはじめとする皮革業は、死牛馬の処理や解体といった被差別部落の生業という歴史的背景を持っています。西成の製靴業もまた、そうした歴史を背負いつつ明治以降に発展してきたものです。

近世大坂、現浪速区にある渡辺村は皮革の流通拠点として大いに栄えていました。近代になって、多くの人びとが職を求めて大阪にやってくると、急増した人口のために渡辺村の南に広がる田畑が市街地化していきます。この大阪の近代都市化の過程で、皮革産業は西成の地場産業になっていったのです。

皮革のまち 西成

西成の製靴業は昭和30 年代には広く近畿一円に商圏を誇るほどのピーク期を迎えましたが、外国製品の進出や合成皮革の登場で縮小。さらに、機械化や職人の高齢化、後継者不足も影響し、総務省統計局による直近の調査では、西成区内の革製履物製造業が69社、革製履物用材料・同附属品製造業が21社と、約10年前の2分の1ほどに減少しました(出典:「平成26年経済センサス‐基礎調査結果」(総務省統計局))。

それでも今も西成は、靴や鞄など革製品を作る職人が数多く住む職人の街。路地の奥では製甲ミシンがカタカタと鳴り、ハンマーを打ちつける音が響く家内制的な工場があちらこちらに存在しています。

設立のきっかけ

西成製靴塾の以前の校舎以前の校舎・長橋小学校(〜2015年)

1995年1月17日、阪神・淡路大震災が起こり、神戸のケミカルシューズ業界は壊滅的な被害に遭いました。西成の皮革関連産業においても中小零細企業が多く、経済基盤は脆弱です。震災の教訓をふまえて、西成でも地場産業の早急な基盤整備の必要性が高まりました。

他方で、ガット・ウルグアイ・ラウンドによる関税自由化の嵐が、靴業界を含む皮革関連業界に大きな影響を及ぼしていました。皮革の自由化で海外生産品が増え、優れた技術者の確保も難しくなってくると、靴職人の高齢化とともに若手職人の不足もいっそう深刻になり、「このままでは靴の職人技術が消えてしまう」と懸念されるようになりました。

そこで、地元の住民組織である「西成地区街づくり委員会」が、職人の技術を伝え、新しい靴作りのプロを育成しよう、また、靴作りをとおして地域の子どもたちに仕事の夢を育み、障害者や高齢者が働ける場づくりにもしようと、やがて本校の設立に至るまちづくり運動が展開されました(1996年)。

この取り組みは、業界の新しい機運を追い風にしていました。これまでのブランド志向よりも個性的で履き心地のよい靴が人気を集めるようになり、「自分の手で靴を作りたい」という思いを抱く若者が増えてきたのです。これらの情勢に応えるべく、「今こそ、職人の技術を伝える靴の学校を!」と、職人たちと地元の有志が力を合わせて設立したのが、わが西成製靴塾なのです(1999年)。

西成製靴塾のねがい

卒業生をはじめ靴作家・靴職人として活躍する人びとを支援・応援するネットワークの構築、大阪の地場産業としての製靴業をはじめとする靴関連業界への社会的貢献に関わっていきます。

①地元産業である革靴製造関連業の広報・啓発活動を通じて産業振興を目指す。
②社会教育の観点から、地元産業を中心に地域の歴史を学ぶ場を提供し、広く西成という街の姿を知ってもらう。

沿革

設立団体:西成区北西部まちづくり委員会(元 西成地区街づくり委員会)

西成製靴塾は、地域のまちづくり運動から生まれてきた靴づくりの学校です。地元と行政で策定した『西成地区総合計画』(1996)では、地場産業の皮革産業(製靴業)に着目し、西成に残った手縫いの製法を身につけた人材を育成する教育事業の立ち上げが謳われました。

以来、さまざまな試行錯誤を経て、1999年6月に長橋小学校の生涯学習ルーム事業として「西成製靴塾」という名称で開校、これまでに数多くの学生を送りだしてきました。そして2015年12月、西成のまちづくり運動の一環で新設された民設民営のにしなり隣保館「スマイル ゆ~とあい」に拠点を移し、さらに2019年4月には近くの鶴見橋商店街7番街に移転して、地元に近い存在として、地場産業である製靴業の再興を目指して新たな地域活動に取り組んでまいります。

1997年4月産業振興施設企画小委員会で「西成クラフトセンター(仮称)」を構想
1997年5月福祉と靴の店「チャレンジド」開店
1997年9月鶴見橋商店街に起業した(株)NICEの2階に皮革工芸品の展示販売所「時風(シ・パラン)」を開設
1998年4月解放会館事業「くつをつくる」
ワークあい主催の靴づくりコース「にしなり製靴塾」を開設
1999年6月「西成製靴塾」と改称し、長橋小学校の生涯学習ルーム事業の一環として開校
2015年12月にしなり隣保館「スマイル ゆ~とあい」の2階に移転
2019年4月鶴見橋商店街内に教室を移転
2021年6月運営方針を転換し、新たな地域支援活動に取り組む
(2022年1月現在)
  • 西成製靴塾の外観
  • 西成製靴塾の内観1
  • 西成製靴塾の内観2

    教室は2021年よりシェア工房として利用